今月の特別展

ご挨拶
日本で作品を発表することは私にとってひとつの創造的な行為です。画家にとって日本は今なお神話的存在であり芸術的な指標なのです。
その文化の豊かさや芸術に宿る感性にはいつも心を動かされてきました。
アトリエでの制作は孤独で内省的な行為ですが、日本で行われた初めての個展では来場者の皆様との出会いと交流がありました。
それはそれぞれの人の感性や求めるものについて私に新たな気づきを与えてくれました。
このたび、熱心で好奇心に満ちた日本の皆さまと作品を分かち合えることを心から光栄に思います。
謙虚な気持ちと誇りを胸に、私の見るこの世界一光と色彩に満ちた世界一を皆さまと分かち合えたら幸いです。
温かく迎えてくださった日本の皆様に心より感謝いたします。

ジャン・モワラス

Production
最初にアクリル材に紺青、赤錆色、バーントアンバーなどの顔料を加え厚みのある下地塗料を作る。
次にこの独自塗料をキャンバスにナイフで塗り、塗料が乾かないうちに竹ペン、筆の柄、細ナイフ等を使い厚い塗料に刻み込むようにデッサンの下書きを描く。
この下地が乾いたらアクリル結合剤を水で薄め、顔料を加えた4種類の絵具を作る。
この絵具を主題に応じてキャンバスに塗り、余分な部分や凹凸を際立たせたい部分に鋼刃で絵具を取り除き、そこに市販のアクリル絵具、筆、ブラシ、パレットナイフや自動車車体に使用するナイフなどを使い描いていく。
最後の仕上げは、光沢のある伸び良い液状の黒のアクリル絵具を、ピペットを使い輪郭を浮き上がらせ主題に一層の存在感を与えていく。

モワラスの絵はマチエールと光、そして色彩の絵画である。
並べ重ねられた色彩が立体感を生み出し、豊かで明るく輝きの色彩が互いに響き合っている。
彼の絵は主観的な視線に根差し、抽象表現は風景や空間の中に組み込まれている。
たとえば描かれた家々といった小さなデッサンのひとつが物語を作り、作品を位置づけ均衡を与えている。
見る者を魅了し豊かに変化する色彩。
それを操る素晴らしい才能をモワラスは持っているのだ。

美術史家・著作家ピエール・アラン レヴィ

これまで数々の斬新で画期的な作品を生み出してきた千住 博。
1995年、創立100周年の第46回ヴェネツィアビエンナーレに出品した
「ザ・フォール(滝)」は個人賞として最高の名誉芸術家顕彰(優秀賞)を受賞した。
英国の巨匠を下しての受賞に加えて、絵画部門での受賞は東洋人として初の快挙となった。天然の岩絵具で描いた日本画「ザ・フォール(滝)」が世界のアートシーンで現代アートとして評価された衝撃的な出来事であった。
近年は高野山金剛峯寺の襖絵奉納など数々の功績は枚挙にいとまがない。
本作「ウォーターフォール」は岩絵具の青で描いた背景のパネルの上から下に絵具(胡粉)を流して、絵具が流れたいように流している。つまり描いた滝ではなく絵具による滝であって、絵具の流れた跡が全部画面に残っていて臨場感に溢れている。
雪舟や狩野永徳が目標とした中国の宋元画が日本画の源泉と語る千住 博。
この先達から受け継いだ日本画を時代も、民族も、国境も越えて千住は世界に認めさせた。
本作品は飾りやすい人気の3号スクエアサイズの珠玉の逸品である。
ここ数年、千住の作品価格は高騰が著しく、新作の入手は極めて難しい状態が続いている。

フジタが初めてパリに渡ったのは、第一次大戦が勃発する前年の1913年、彼が27歳の頃であった。
西洋人にとって未見の面相筆で描くフジタの秀麗な輪郭線、乳白色の肌の艶やかな女性像が評判となり1917年の初個展で大成功を収め、やがてエコール・ド・パリの寵児と言われるまでになった。
本作「頬杖をつくマドレーヌ」はカジノ・ド・パリの踊り子でフジタのモデルでもあり恋人であった22歳時のマドレーヌ・ルクーを描いた水彩画。
墨の濃淡で肌の透明感と柔らかな質感をフジタならではの力強く繊細な線で描いている。
1933年11月マドレーヌを伴いメキシコ、アメリカを経由して日本に帰国、東京戸塚町にアトリエを構える。
1936年６月不幸にもこのアトリエでマドレーヌは急死、29歳の若さであった。
フジタ46歳の才気溢れる手によって描かれた本作は水彩画の逸品と言える。

ベルナール・ビュッフェは1928年パリに生まれ第二次世界大戦後のフランス画壇に彗星のごとく現れた。1948年、若干20歳にして画家の登竜門として最も権威あるクリティック賞(批評家賞)受賞、早熟の天才と言われた。
当時 抽象画全盛であった世界の美術市場に大戦後の不安や虚無感が漂う社会をモノトーンに近い硬質な鋭い線描の具象画で描いたベルナール・ビュッフェ。
日本でも彼の人気は絶大で日本画家加山又造、芥川賞作家で版画家の池田満寿夫など多くの作家が強烈な衝撃と影響を受けた。
後に静岡県長泉町ベルナール・ビュッフェ美術館が創設される。
本作はビュッフェの最高傑作「キリストの受難」三部作発表の翌年1952年(24歳時)に制作された。
彼の生涯で最も気力が充実していたと言われる時代の貴重なデッサン画。
鉛筆を使用して力強く正確な構図で描かれた本作品「Le quai」は水彩、油彩では味わうことが出来ないビュッフェの鋭い線描が存分に楽しめる贅沢な逸品と言える。

1991年東京芸術劇場での初来日展で大成功を収めて以来30余年、日本でのボナフェの人気は今も衰える事なくファンが増え続けている。
ボナフェのコレクターでもあったシラク元仏大統領に成熟の赤と評されたボナフェの赤は彼の代名詞となった。
本作品「透明な朝日」は南フランス・モンペリエ地方の光輝く朝を描いた油彩画。
一面に広がる黄色に染まった空、遠くに映る小高い山や畑、笠松等の緑色に対し目を見張る美しいオレンジ畑という具合に画面全体が補色で見事に構成されている。
この絶妙な配色は黄色、赤やオレンジの色がより鮮明に見えるから不思議だ。
現在フランス画壇色彩派の第一人者として高い評価を受けているロジェ・ボナフェだが近年体調不良により新作が発表できない状態が続いている。
豊かな色彩でシャープに力強く描かれた本作品はボナフェ60歳頃に制作したもので50号サイズの全盛期の逸品である。

太古から人間と馬との関わりは深い。
人は狩の対象であった馬を家畜化し、その高い身体能力を自分たちの生活の支えにしてきたのであろう。
約2万年前にフランス南西部ラスコー洞窟に描かれた馬は古今東西のアーティストたちに創作の意欲、刺激を与え多くの画家が馬をモチーフに描いてきた。
とりわけ現代ではフランスの人気作家アンドレ・ブラジリエが描く馬は世界で際立つ存在と言えよう。
生前彼と親交が深かった日本画家東山魁夷はブラジリエについて感動を簡潔な構図と洗練された色感で生き生き表現していると評していた。
実際に作家自身の出自が上流階級にあり、競馬や乗馬といった貴族の嗜みは作家に近い自然なものであった。
本作「青い雲」は流れるような厚く青い雲に覆われた浜辺を颯爽と風を切って乗馬を楽しむ情景が描かれている。
作品の中央右付近に僅かに使われている赤色が本作品を見事に引き締めている。
爽快な気分にさせてくれる本作品は最もブラジリエらしい品格の漂う逸品と言える。

19世紀末、パリ万博をきっかけにして巻き起こった日本の芸術熱は「ジャポニスム」と呼ばれた。
印象派を代表する画家クロード・モネは自宅に日本庭園を作るなど、日本の浮世絵から大きな影響を受け、代表作「睡蓮」の連作を完成させた。
このモネの作品に魅了された平松礼二は日本画家の視点から日本画の技法を駆使して「モネの睡蓮」を描いた。
この一連の平松作品は仏で高い評価を得た。
2013年仏ジヴェルニー印象派美術館で開催された「平松礼二、睡蓮の池オマージュ」展は大成功をおさめ、平松礼二の名を仏をはじめヨーロッパ各地に広く知らしめた。
2021年3月これらの功績が認められフランス政府より芸術文化勲章が授与された。
2011年3月11日に起きた東日本大震災に大きな衝撃を受けた平松礼二。
この体験を後世に残そうと描き始めたのが本作花姿富士の連作。
日本人の心のありかである富士山。
日の丸の象徴である紅白を紅白梅で、白は雪にも見立て江戸文様の波姿に浮かぶ島国という構図で描いている。
本作品「花岳」は平松礼二の願いを込めた渾身の一作である。

憂いを帯びたエレガントな女性を描いて人気のフランス人作家、ジャン・ピエール・カシニョール。
1966年、彼の作品が初めて日本に紹介される。
1970年代に入ると日本各地で住宅の洋風化が進み、床の間の掛け軸からリビング等に飾るおしゃれな絵に社会のニーズが変化していった。
大正時代の竹久夢二を彷彿させ、ノスタルジーを感じる細身の女性を描いたカシニョールの人気は凄まじく、多くの家庭やオフィス、ホテル等で彼のリトグラフが飾られた。以降60年近く日本での絶大な人気は続いている。
1990年、東京、大阪、京都、福岡で開催された朝日新聞社主催「カシニョール展」の成功で確固たる地位を築いた。
本作「友達」は昼下がり、パリ郊外の公園に佇む二人の女性。大きな帽子を被った優美な女性の後ろ姿はカシニョールの代表的な人気のモチーフ。
2007年(72歳)制作の本作品は気品に溢れ、見る者を優雅な気持ちにさせてくれる油彩画の逸品である。

ポップアートを代表する作家、アンディ・ウォーホル(1928～1987)は言うまでもなく、戦後のアメリカ文化を体現するスーパースターである。
ニューヨークで1950年代にグラフィックデザイナーとして出発した彼は、まもなく美術を志すようになり、1960年代の初めにマリリン・モンロー、キャンベルスープ缶、コカコーラの瓶などの大衆的イメージをシルクスクリーンなどによって機械的に反復した絵画を発表して美術界に衝撃を与えた。
さらに美術のみならず、前衛的な映画の制作、ロック音楽のプロデュース、有名人へのインタビュー雑誌の創刊など幅広い活動を通じて、1960年代アンダーグラウンド芸術の帝王として君臨する。1970年以降はニューヨーク社交界の花形として常に話題の中心にいた。
本作「KIKU」は1983年に日本で開催される展覧会のために制作された「KIKU」シリーズ版画3部作の中の1枚。
ウォーホルはこのシリーズの制作にあたり、皇室の家紋でもあり日本を象徴する菊の花をモチーフにする事に決めた。
彼はこの版画を日本の工房で制作する事を希望し完成させた。
作品は透明感のある色彩、菊の花の輪郭線、色彩のグラデーションなど出色の出来栄えと内外で高い評価を得た。
本作品は3部作の中でも最も入手が難しいとされる人気作である。
現代アートが世界の美術市場を席巻している今日、名実共にその頂点に立つアンディ・ウォーホルの作品は資産価値も高く高騰が続いている。

詩情あふれる世界を幻想的で色彩豊かに描いた愛の画家マルク・シャガール。
旧ロシア帝国、ビテブスクのユダヤ人の家庭に生まれた。
シャガールは絵画のほか陶器やステンドグラス、舞台芸術など幅広い制作を手がけ高い評価を得た。
とりわけ彼のライフワークとも言える版画は生涯2000点以上制作、多くの名作を残している。
1961年シャガールは古代ギリシャの恋愛小説「ダフニスとクロエ」を題材にしたリトグラフ42枚入りの挿画本を発表した。
小説はエーゲ海に浮かぶ自然豊かなレスボス島を舞台に繰り広げられる少年ダフニスと少女クロエの恋の物語。
シャガールは神話的な輝きを表現するため二度にわたりギリシャに取材旅行をするなどしてこの版画の制作に取り組んだ。
42枚の中の一作である本作品「木精」はエーゲ海で抱き合う
ダフニスとクロエの神秘的な一場面。
シャガールの深いブルーはこのシリーズの人気の一作。
完成まで4年の歳月が費やされたと言われる本作はリトグラフ史上最高傑作として世界中の美術館にコレクションされている。

「世界のムナカタ」として国内外から高い評価を得て、確固たる地位を築いた棟方志功は多くの女性像を描いた名作を残している。
棟方芸術の思想的特徴のひとつに「フェミニズム、女性崇拝」がある。幼少期に影響を受けた祖母の宗教観、母の深い慈愛、婦人の情愛などが礎となったと言われている。
本作「大顔の柵」は1959年(昭和34年)に制作された裏彩色仕上げの木板画。
裏彩色とは最初に白黒で擦った木板画の和紙の裏から作家が手彩で色付けするもので、木板画特有の線や墨を消す事なく彩色が可能。
版画でありながら一枚一枚の作品の色彩が微妙に異なり、同じ物が二つと無い貴重なオリジナル作品。
棟方56歳時制作の大首裏彩色仕上げの本作品は棟方の息遣いが聞こえてくるかの様なエネルギー溢れる珠玉の逸品と言える。
資産性のある棟方作品は年々市場価値が高まっている。

1993年 イタリア・ローマ生まれ。
イタリアのライセンスを持つ建築家でありアーティスト。

ローマ・ラ・サピエンツア大学建築学科卒業。
2016年イタリアで発生した地震被災地の再設計に関する研究論文で修士号を取得。
2018年学生向け国際大会「The Solar Decathlon」に参加し8月の設計コンペティションでの優勝を機に来日。

現在日本でアーティスト、ライブパフォーマーとしてレイバンジャパン（吉祥寺店、福岡店）のオープニングパーティでは30m以上の壁画、50人のボディペイントなどの活躍をTV、雑誌等でも紹介される。
大手企業（PRADA、HITACHI、CARTIER）等のCEOも作品を所有。

1975〜born in Kumamoto

Figure / JAPON:ism